馬たちのクリスマス&正月
去年の今頃は、楽や詩にやっと鞍をつけて跨がれるようになって、ちょっと一段落した時期だった。
2頭とも、まだベタベタ触っていると逃げてしまう状態だったけど、少しずつここでの生活にも慣れてきていたんじゃないかと思う。
北海道の牧場にいたときは、広いところでたくさんの仲間たちと自由に過ごしていた。
それに比べたら、こちらに来てからの生活は、狭くて放牧場に草木は生えてないし、馬は少なくて人間ばかりだし、不自由に思っていたかもしれない。
でも、これから人間と一緒に生きていく以上、たくさんの人からかわいがられるようになってほしい。
去年のクリスマスは、タイミング的にはちょうどよかったかもしれない。
怖がったりしないか様子を見ながら、サンタの帽子を付けて放牧してみた。
年明けには正月飾りを付けて放牧した。
飾りは半日で壊れてしまったけど、ご近所に好評だった。
今年は陽もいるし、また挑戦してみようと思う。
陽にちょっと詩の鞍を乗せてみた。
去年のクリスマス
今年の正月
馬たちと野生動物
うちの周囲には、いろいろな動物が生息しているらしい。
なかなかその姿は見られないけど、近所の人と話をしていると、よく動物の話を教えてもらえる。
まだ楽が来ていなかったおととしの夏、庭は草ボーボーになってしまい、なすすべもなく秋が来るのを待つしかなかった。
母が、ちょっとは草を刈ろうとジャングルのような庭に分け入ったところ、足元に鳥の巣を発見した。
そこには、タマゴを抱えているメス鳥がいて、思いっきり睨まれたという。
キジが抱卵していたのだった。
キジは本当にたくさんいて、大きな木に近づくと、10羽くらい一度に飛び立ったりして、こんなにたくさん、食べていけるエサがあるんだろうかと驚いてしまう。
丸馬場で馬にリードをつけてクルクル回して運動させているとき、いきなり丸馬場を横断するなど、人に対する警戒心も薄い。
以前は猟区だったこの近辺が禁猟区になって、どんどん増えていったそうだ。
天敵がいなくなったと思われたキジたちだが、たびたびキツネなどに捕食されるらしい。
実際、キジが野生のキツネに襲われるところを近所の人が見ていた。
夜になると、フクロウが毎晩近所の木に飛んでくる、とも聞いた。
そこそこ住宅街だと思うけど、他にも、イタチ、アナグマ、ハクビシン、アライグマ、野うさぎ、イノシシとバラエティにとんでいる。
もちろん、マムシやヤマカガシなど、ヘビ関係も充実している。
動物たちが行動するのはほとんど夜だろうから、馬たちは、けっこういろいろな動物と出くわしているかもしれない。
家の東側で日向ぼっこしていたタヌキ
畑にいたつがいのキジ。メスは保護色で見えにくく、警戒心が強い。
家の中から外を見ると、キジが砂あびしていた。
馬たちと重機
馬たちの放牧場は、隣の耕作していない畑を借りて、うちの敷地とつなげて使わせてもらっている。
北側が道路沿いの畑で、馬たちが首を出しても道路にはみ出さないよう、柵はだいぶ内側に設置している。
私の前にこの畑を借りていた人は、長い間耕作していて、トラクターを使っていた。
耕すたびに、畑の土が道路に少しずつはみ出して、そのまま固まってしまっていた。
一度も見たことなかったのだが、道路には側溝があって、埋まって見えなくなっていたそうだ。
そのため、雨が降ると道路が冠水してしまい、なかなか水が引かなかった。
先日、近所の方が、親戚から借りた小さなユンボ(重機)を持ってきて、側溝の上にかぶさっていた土をどかしてくれた。
手作業ではどうにもならない状況だったので、本当にありがたかった。
ユンボは、側溝を覆っていた土をどんどん掘り起こして、放牧場のほうへ積んでいく。
馬たちはユンボに驚くかと思ったら、土に生えていた雑草を食べようと、3頭で土をあさっていた。
陽は、お腹いっぱいになったのか、飽きてしまったのか、途中でピヒヒ~ンと鳴きながら走ってきた。
食べているときは一心不乱という感じの陽。
最近は、人間にかまってほしいとき、「遊ぼう」と言っているみたいに、ヒヒ~ンと呼びかけるようになった。
このときは、まだ電気柵が壊れていたので、馬たちは柵ギリギリまで首を突っ込んでいた。
”危険さわるな!”の標識がむなしい
遊んでほしくて走ってきた。
馬たちの寝床
馬房は普段、開けたままにして、馬たちが自由に出入りできるようにしている。
馬たちは、夜は馬房に帰って寝ているかというとそうでもなく、放牧場の端っこで寝ていたり、ちょっと砂が敷いてある丸馬場で寝ていたり、その日の気分で寝る場所も決まるらしい。
朝、エサをやってボロ(馬糞)を拾って歩いているときに、いかにも馬たちが寝ていたような跡を見つけて、ああ夕べはここで寝たんだなと思ったりしている。
なので、馬房には、あまりフカフカになるほどの敷料は敷いてないけど、適当に籾殻を入れていた。
それも、9月に入って詩が出産し、しばらく親子を馬房に入れていたときに、ストックしていた分は全部使ってしまった。
籾殻は、秋の収穫が始まると、農協のカントリーエレベーターというところに行けばもらえる。
10月なら日曜も開いているけど、なかなか取りに行けずに、早く行かなきゃと思っているうちに寒くなってきてしまった。
先週、やっと休みを取って、取りに行った。
軽トラにあおりを立てて、最寄のカントリーエレベーターへ。
籾殻は、大きなサイロに貯めてあって、下に軽トラで乗り付けて、上から落とすような形になっている。
奥のレバーを引くと籾殻がバーッと落ちてきて、手前のレバーを引くと止まる。
このタイミングが意外と難しい。
奥のレバーは固いんだけど、あまり強く引いてしまうと、あっという間に軽トラはいっぱいになってしまう。
以前、車屋のマコっちゃんという友達に頼んで、一緒に来てもらったことがある。
マコっちゃんは、固いレバーを思いっきり引いた。
ブォァァァァ!という音と共に、ものすごい量の籾殻が落ちてきた。
自分も軽トラごと埋まるんじゃないかと思うような勢い。
ドリフのコントのようだった。
マコっちゃんは、あわてて手前のレバーを引いて止めた。
そして、逃げるようにカントリーエレベーターを後にした。
しかし、軽トラに山盛りになった籾殻は、バーバーザーザー後ろに飛ばされていく。
籾殻の威力は大変なもので、細かい粒子で、フロントガラスは真っ白になってしまう。
「わはは、後ろの車、すげー車間距離あけてる」とマコっちゃんは喜んでいた。
後ろの車は、100mはありそうな車間距離を保っていた。
もっとも、喜んでいる場合ではなく、人間の目にもダメージがあって、1週間くらい目が腫れてしまった。
今回は、それに比べたらもうちょっとはマシだったけど、あおりの隙間などから、多少籾殻をまき散らしてしまった。
もっと工夫が必要だと感じた。
上の黒い筒みたいなところから籾殻が落ちてくる
なぜか籾殻に顔を突っ込んだ詩
ブホッ!
新米の籾殻に陽も興味津々
馬の下痢
詩がうちに来たのは、去年の9月。
3才のときだった。
その後、自然交配だったけど、10月の頭に最後の発情があったようなので、そのときに妊娠したんだと思う。
妊娠したころから、詩は下痢をするようになった。
獣医さんに相談すると、食べすぎでは?ということだったので、エサを減らしたが、治らなかった。
いろいろ悩んで、ビオフェルミンを与えたり、甘酒を作って飲ませてみたりしたが、いっこうに治らなかった。
かんな馬の会という、有志で馬を飼育している団体があって、いつも馬のことを教えてもらっている。
会の馬にも、妊娠後に下痢が続き、何人かの獣医さんに相談したり、水の成分を調べたりしたが、わからなかった馬がいたそうだ。
ところが、出産して1週間ぐらいで治ってしまった、と言っていた。
詩のほうも、もしかしたら、妊娠で体調が変わっているのかもしれない、とは思ったが、ずっと気にしていた。
出産直前の8月、詩の下痢が急に収まった。
特に何もしていないのに、突然治ってしまった。
結局、詳しい原因はわからなかったけど、ホッと一安心した。
無事、陽が生まれたあと、近くで道産子を飼ってる人が、陽を見に来たことがあった。
その人は、母馬にまた発情が来たら、子馬がかなり激しい下痢をすることがあるけど、気にしないで大丈夫だよ、と言っていた。
子馬を出産すると、早い馬は10日くらいで発情が来ると聞いたことがある。
今のところ、陽は下痢をしたことがない。
詩はまだ発情がきていないのだろうか。
つい心配になってしまうことがひとつある。
でも大丈夫なはず。
楽は陽が生まれてすぐ去勢したし、詩が実は妊娠してるなんてことあり得ないと思うから…。
去年の9月、詩がうちに来て3日目。
発情が見た目にはわからない馬もいるそうだが、詩の尻尾を上げるしぐさは、教科書どおりの発情のサインだった。
馬たちとおまわりさん
引っ越してきて、あっという間に3年半が経った。
家に表札をつけていないけど、自治会に入っていれば近所では名前などもわかっているので、特に気にしていなかった。
2年ほど前、楽が来た頃のこと、平日におまわりさんが尋ねてきた。
ちょうど母がうちにいたので、話をしたところ、近くの交番のおまわりさんで、たまに近所の様子を見てまわっているそうだった。
名前や家族構成を聞かれて、楽のことも、名前と年齢、性別をメモしていったらしい。
ペットも家族だから、ということなのかもしれない。
近所の人の話によると、うちの周りは警察官や元警察官という家が5軒くらいあるらしい。
田舎ということもあって、あまり警察官は見かけないと思っていたのだが、一般企業の仕事が少なく、農家も減っていることを考えれば、公務員が多いと感じても不思議はないかもしれない。
馬房を作るために通ってくれた大工さんが、うちに来る途中、スピード違反で捕まったことがあった。
スピード違反は、現行犯でないと捕まらないらしい。
大工さんは振り切って逃げようとした。
若い頃はカーレースが趣味で、ターボ付きの軽トラという、めずらしい車に乗っていた。
でも、あいにく行き止まりだったそうで、パトカーにウァンウァンとサイレンを鳴らされて追いかけられた挙句、御用となった。
当時、大工さんの本職はトラックの運転手だった。
にもかかわらず、免停というマズイ自体になった。
薄給で、免停の講習費用をカンパするような苦しい経済状況だった大工さん。
今は建材屋の社長になっていて、いい車に乗って安全運転している。
そんなことがあったので、うちに遊びに来たサッカー仲間に、道中スピード違反に気をつけてくれと言った。
「こんな田舎に警察がいるわけないだろう」と半信半疑な様子で言っていたので、そうでもないということをよく説明しておいた。
大工さんが昼寝していると、楽は必ず帽子をくわえて持っていった。
2014年2月。未完成の馬房。70センチの積雪があった。
馬を見ていた?幽霊
幽霊というと、巷で話題になるような心霊スポットを連想するけど、引っ越してきてから、ちょっとその認識が変わるようなことがあった。
墓地は、都会なら整備された霊園が当たり前だから、幽霊とも縁遠いイメージがある。
でも、田舎にありがちなのは、昔からの集落の墓地や、個人の墓地で、これまた意外とそこらじゅうにある。
きれいに整備されているお墓ならいいけど、中にはかなり荒れているところもある。
引っ越してきたばかりの頃、馬房を作ってくれていた大工さんと材木の買い出しに行ったときのこと。
ちょっとうちの周りをまわってみようと、集落の古いお墓がある道を通った。
大工さんが突然、「あっ、いる…!いるよここ。あそこにいるよほら!」と言い出した。
えっ、何が?と焦って聞いたところ、白い光が飛んでいる、こちらを見ているという。
大工さんは多少霊感があるというが、私はまったくわからなかった。
その後、昔からのサッカー観戦仲間が遊びに来たときのこと。
集落の古いお墓は、草むらに隠れていて、お墓自体は見えないのだが、うちからもその場所は見える。
仲間のひとりが、その墓地のほうを見て、「あの辺、ぼうっと赤く光ってる」と言う。
えっ、ホントに?と、また焦ったが、やっぱり何も見えなかった。
そういえば、ここに引っ越してくる前、不動産屋さんにいろいろなことを教わった。
古井戸を埋めるときは、櫛と気抜き用のパイプを埋めなければいけない、井戸には女の神様がいて、いい加減に埋めると怒らせてしまうから、とか、大きな木は霊が宿っているので切らないほうがいい、とか。
いまどきあまり聞かない話が、田舎にはたくさんあった。
ところでその不動産屋さんも、集落の墓地のほうを指して、「あの辺、何かいますよ」と言っていた。
私は霊感がないから何も見えないけど、正直これを書いてるだけで怖い…。
引っ越してきた当初は、そんなことがあったけど、毎日が忙しく過ぎていって、特に馬が来てからは、幽霊のことはすっかり忘れていた。
サッカー仲間は毎年バーベキューをしにくるようになったけど、今は何も見えないと言うし、大工さんもそういえば見えなくなったと言っていた。
みんなの意見をまとめると、引っ越してきたのはどんなヤツなのか、観察していたんじゃないか、ということだった。
とりあえず善良な一般市民と馬、ということがわかってもらえたから、出て来なくなったんじゃないかと。
だったらよかった。
見えないけど、やっぱり怖いし…。
ハロウィンのときの、おばけの陽
放牧場の南側は酪農家の方の9,000坪の牧草地と、その奥には森があり、所々に小さな墓地が点在している。